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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
また、この春には、
「先帝は隠岐へ、ご配流ときまった」
と、聞えてから、笠置、赤坂の残党も海をこえて、この地方へ入りこんでいた。そして、
「先帝の御駕が、中国路へかかるは必定。そのときには」
と、大覚寺ノ宮恒性を中心に、もう数十日も前から、今日のいたるのを、じつに手具脛ひいていたのである。
……密談、しばらく。いつか暮れた方丈の障子の内では、
「では、宮にもすぐさまお身支度を」
と、松田重明の声がほどなく洩れていた。
つづいて、その重明は、子息の権ノ五郎へ、
「このこと、高徳へも、さっそく告げたか」
「いや、舟路を来ましたので、児島殿とはまだ会うているひまもありません」
「お、そうだったな。誰を走らせよう」
「誰をと申しているまも面倒。いっそ、それがしが先へ駈けて伝えおきます。宮や父上には、あとよりおつづき下されい」
権ノ五郎は、ふたたび館の門から、馬をとばして、どこへか駈けた。すでに中国山脈の背は星だった。
わずか四里余の道。権ノ五郎の馬では一ト鞭の距離といっていい。
でも、さすが馬の疲れに、五郎は目的の邑久郡今木(現・今城)までくると急に歩速をゆるめ、やがて向山の今木城のうちへ入った。