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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

「花の下道、ゆるやかに遣れ」

その日は、道誉も秀朝も、馬は郎党の手に曳かせて、輦輿のそばに添って歩いた。

憂き旅と

思ひは果てじ

ひと枝の

花のなさけの

かかる折には

こんな歌も侍者の公卿に口誦さまれたほど、この日の道では、囚人と武士との間も、和やかだった。

久米の皿山を越えると、院ノ庄はもうちかい。そこには近郡近郷の飢饉年に備える倉院(蓄備倉)の役所がある。ひろい院庭には、見る人のない遅桜がここにも雪のように散り敷いていた。

「いざ、お約束です。二日ほどは、存分、ごゆるり遊ばされい」

着くと、道誉は、侍者たちへこう披露した。

彼の家臣が先着していて、ここでは何かと用意もととのっていたのである。第一は長旅の雨露に汚れぬいた鎧下着やら肌着をかえたいことだった。

もちろん、帝をはじめ、三人の妃や侍者たちのためにも彼は用意させておいた。また、つたえ聞いた近郡の地頭や、郷士、法師らの献物もおびただしく、酒、麹、干魚、乾し果物、さまざまな山幸が、行宮の一部の板屋廂には山と積まれた。

お湯浴みなども、久々であり、湯殿をめぐる湯けむりのうちに、妃たちの溶く化粧のものの香や臙脂の艶めきが漂うなども、めずらしかった。