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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
「それはない」
「ところが、おれがさっき、斜めに寄ってさし覗いたら、左の瞼のあたりに、うすくこう、青痣があった。……だから思い止まれといったのに、きさまはどこまで諦めぬ」
「間違っても、損はない。女にあやまればすむことだ。いやなら、おれ一人でただしてみる」
「まあ待て。そう慌てなくても女の足。おれも行くさ」
一方の藤夜叉は、関明神のお旅所のうらに、かがまっていた。笠を眉ぶかに沈め、竹の杖を両手に持って、石垣の下の石の一つに腰かけたまま、もう一歩もあるけないような呼吸をしていた。ゆうべから、さまよいつづけて、京の内を離れるまではと、まだ、朝餉も食べていなかったのだ。
「…………」
誰か、眼の前のやや離れたところに、人が来て立っている。
と、彼女は体で感じていたが、もう立つ力はなかったらしい。笠もそのまま、顔もさし俯向けたまま、じっとしていた。
「……?」
ふたりの浪人も、凝視をそろえているきりで、しばらくは何もいわず、ただ、自分らが尋ねていた者であるや否やを、慎重に見さだめようとしているふうであったが、やがてのこと、
「藤夜叉さま!」
同時に言って、同時にふたりとも、地へひざまずいた。