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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

――というのも、護送使の立場にはいるが、自分もじつは、鎌倉の譴責をうけて下って行く身なのである。

「今日の人の身は、あすの我が身という言葉もある」

と、どこかでは、彼にも、そんな惻隠の情めいたものが、吹きぬけるように、ささやかれていたことかもしれない。

近江路も三日目、鏡ノ宿から先は雨空だった。まもなく犬上郡である。

「だいじな囚人、鎌倉へ行きつかぬまに、病気させては、落度になろう。宿の予定をかえて、民家でも寺でもさがせ」

と道誉は、その日の行を半日で休めさせた。

土地の“長者”ともいわれる旧家であろうか。大夕立の中を、人馬は門へなだれ寄って、そこを不時の宿所に宛てた。――どんな急でも、官旅の人馬には、拒めないのが掟であった。わけて、ここらはもう近江源氏一族の領下である。長者の家では、下へもおかない。

「だいぶ都も離れました」

奥の一ト棟を、中納言具行の一夜の牢居とさだめてから、道誉はそこへ来て言った。そして、

「こよいは、それがし自身、番士をつとめるつもりです。お心おきなく」

と、風呂場には、新しい衣服をそなえさせ、夜には、食膳を共にするなど、何くれとなく、その牢愁を、なぐさめた。