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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

「……俗にもいうぞ、背に腹はかえられん、と。……はて、まだかな」

と、門に立って、街道の西を見ていた。――輿は、摺針峠の上で、あれから、一ト息入れてでもいたのだろうか、同勢、だいぶ遅れているらしい。

が、まもなく彼方に、列の先頭が見え出した。道誉は、それの近づくのも待ちきれず、馬の背にまたがった。

そして、自身からも、馬を駈けさせて、街道中で、列の先頭にぶつかるやいな、

「北へ折れろ。彼方の辻を、北の方へ曲がれ」

と、やにわに、指さした。

先頭は、まごつき、輿も人馬も、いちど通りすぎた町屋の辻の角まで、あとずさりに押し戻された。

近江の山、美濃ざかいの山、どっちを向いても山ばかりな駅路だが、その柏原の街道を、北へ三、四丁ほど折れて行くと、さらに一つの山の山すそへ出る。

「よかろう」

道誉は、列へ、号令をくだした。

自身もサッと馬を降りる。

「その辺へ、輿をおろせ」

と、つづいて言った。

輿の内の北畠具行は、さっきから怪しんで、しきりに「……どこへ行くのか」と、警固の兵に訊いていたらしいが、もとより兵も知らないのである。――ここへ来て、命ぜられるまま、輿を、青芒のなかへ下ろした。