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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

「はて。ここは街道とも思われぬに、なんで?」

具行は、きのうも今日も、しごく快活に過ごしていたが、よほど不安に突かれたとみえ、板輿の内から顔をさし出して、

「道誉。……誰ぞ、道誉をこれへ呼んでくれぬか」

と、言っていた。

けれど、馬の尻や、兵たちの汗の背が、彼の眼をさえぎッているだけで、たれも答えてくれる者すらない。

そのはずだった。

道誉の姿は、そこから百歩も彼方の、山寺の裏口らしい崩れ築土の蔭に、床几をすえ、民谷玄蕃、田子六郎左衛門などの、おもなる家臣と、何やら鳩首している様子なのである。

「よいか、六郎左」

道誉は、仔細を話していたのだ。そう念を押した上で、ふところから、自分がさきに受けた鎌倉の一状を取り出して、

「太刀執りは、そちたちにまかせる。――まずこの執権の御奉書を読みきかせ、すみやかに、刑を執りおこなってしまうのだ。わしは近くでは見るにたえん。ここにいて、検分しておる。早くいたせ」

と、いいつけた。

「はっ。かしこまりました」

二人は、床几のまえを離れた。いつになく意気地のない主人と、妙な気もしないでなかった。――それに、おとといからの雷鳴り癖が今日も遠くで鳴り出している。