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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

――よいか、書中は重大だぞ」

「仰せ、かしこまりました。では即刻」

「待て。――みかどには、先ごろから、皇居を二条富小路の里内裏(町なかの仮ノ御所)へお移しあったと、うけたまわる。承知してか」

「心得ておりまする」

「また、いうまでもなく、叡山から内裏への途々には、六波羅の眼が油断あるまい。雲母坂、白川道など、いずれを行くも危うかろうぞ。なんとするか」

「姿を変えて、黒谷より大原、芹生の間道をこえ、明夜、夜にまぎれて御所へと存じますが」

「むむ。寸時をもいそぐが、時のみ急いで、万一あらば、とり返しはつかぬ。ぬかるな」

「は。身命にかけて」

「それよ、この使い、身命を賭してくれい。そちのほか公人数名、連れまいっては、どうかの」

「いえいえ。身を窶して忍ぶには、かえって、一人こそよけれです。とまれ明夜中には、ご密旨の儀、相違なく、内裏のおん内へ達するものとおぼし召し下さいましょう」

かくて、森掃部は、急遽、その夜の夜半から暁のあいだに、山門から密々下山して行ったかと思われる。――その彼とも見えぬが、手も顔も黒くした“漆掻き”の男が、まだ夜も明けぬうち、大原から鞍馬への間道を急いでいたが、思うに、それが森掃部であったかもしれない。