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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
ちょうど、門前での出会いがしらだった正成は、
「え。勅使?」
と、立ちすくみ、恐懼と共に全身は、なにか雷気をふくむ黒雲の中にでも立ち暮れたような茫然を見せ、
「……み使いとあっては」
と、余儀なげな姿を駒の背からすべらせた。
おそらく彼もこんな山家の門へ、勅使を迎えようなどとは、思いもかけぬことだったろう。光栄などという思惟で心をかざる気にはなれない。
それはむしろ困惑だった。人には人の世に処する考え方や生き方もみなちがう。彼はこの山間に、凡々とただ生を安んじて来たひとりに過ぎない。たとえば、岩間の石楠花かつつじの如きものだ。山の花は誰の来訪も好んではいない。また宮苑に咲くことも欲しない。まして砦の石垣に――と正成は密かに思う。
だが、ともあれと、
「爺。――いそいで、おくの書院を清めておけ」
と、命じ。また、松尾刑部に駒をあずけ、何くれとなく、勅使迎えの礼に欠くなきようにいいつけたりした。
――まもなく輿が見えてくる。
それも貧しげな山輿にすぎなかった。供は坊の者四、五人。藤房のつれていた従者らしいのがやはり四、五名。
「…………」
正成は、門側にひざまずいて、輿から降りた人影を礼拝した。