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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
酒を酌んで、宵は寝た。
やがて夜半の頃、一同はもそもそと起き出して身支度にかかり出す。
――折ふし風がつよく、雨さえ交じって、血ぐさい戦場はいとど寒々と暗かった。
「おのおの太刀は背中に背負え」
陶山義高は、言い渡す。
「身軽がいいぞ。よけいな物は、一切具足から取り捨てろ。かぶとも用いず、素頭に鉢金だけを当て、草鞋の緒はきつく締めるな。絶壁を攀じ、乱岩の山上で働くには、緒が切れやすい」
小見山次郎も次にいう。
「――笠置の山上は足場も狭い。忍び込んだらすぐ砦の諸所へわかれて火を放つのだ。その火を見れば、味方の総軍が一気に攻めかかろう。勝利は早や掌のうちのもの。抜かるな一同」
「…………」
部下五十余の顔の列、どれもみな、硬直し、声もなく、ただうなずく。
二部将に引かれて、彼らは、味方にもそっと自陣を離れ、暗い冷雨に打たれながら、木津の川べりを北へ走った。
人もない部落がある。有市の部落だ。――陶山と小見山は一軒のやや大きなワラ屋根の土間へ入った。
合戦いらい、戦場となった農村には、人影はおろか鼠もいなくなっている。――が、ここには貪欲な鼻を持った白髪まじりの老農夫が、竈のそばにうずくまって陶山、小見山らを待ちあわせていた。