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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

その座で彼は、兄の経家と脇屋義助から、予定の旗上げの日が、俄にくりあげられたと聞かされたが、それにはかくべつ意外な容子でもなかった。

「して、その日はいつとおきまりになりましたので」

「極秘だが」

と、義助が声をのんだ。

「――八日の朝、生品明神の前に勢揃いの事――と触れ出された」

「八日」

「む」

「すると、あと二日しかありませんな」

「それよ」

と、経家は事の要点へ入った。

「何せい火急だ。これを越後の同族たちへ、牒じ合わしているいとまもない。……そこで、脇屋殿がそちを恃んでお見えなされたようなわけだが」

「わかりました。すぐ越後へ発足いたしましょう」

「そちが」

「いや一人では足りません。同坊ども五、六名を連れ、風のごとく急いで、越後じゅうの新田一味へ触れを廻しまする」

「が、幕府の国府や途中の武辺に怪しまれては一大事だが」

「ご懸念には及びませぬ」

自信をもって吉致は言った。

こういうことには吉致は馴れている。

いつか九州一円にわたって、船上山の御旗上げを数日のまに触れ廻ったのも、彼の指揮だった。

また、都へ出ては、阿波の勝浦ノ庄を根じろに、大塔ノ宮との連絡にあたったり、さらに鎌倉へも忍んで、幾たびか、足利高氏を訪い、高氏と義貞とのあいだに、東西同時旗上げの密約を運ぶなど、それらの下拵えをしてきたのは、みなこの吉致の暗躍