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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

うかれ囃子

うかれ囃子

五月二日の朝だった。

ここで断わっておかねばならないが、以下の時局は、日時を少しさかのぼって、もいちど、元弘三年の“五月暦”をくりかえさねばならなくなる。

ところでその二日の早朝。東国鎌倉ノ府ではまだ寝起き顔の人々のあいだに、ふと小さい噂がかもし出されて、家ごとで、

「おかしいよ、どうも」

「何かヘンだぜ?」

と、不安な朝食をすましているまに、はや若宮小路の執権ノ御所でも、あきらかに、何かあったらしいうごきを総門の内外に見せていた。

「わかった、わかった。いやもう、たいへんだ」

たれが、どう嗅ぎつけて、つたわり出すのか。

町の目や耳は、午ごろには、事のあらましを知って、一そう心ぼそげな眸を、武者の馬ぼこりに、そばめあった。

でなくてさえ、彼らは、上方における鎌倉軍の旗いろは知っている。――武者所や政所では、やっきとなって、

「東国勢は征くところで勝っている!」

と、偽報を公示して、人心の揺れを抑えていたものの、しかし昆虫のように、また蝶や鳥みたいに、府民は生活を託しているここの土壌に敏感なのだった。ただいやおうなしの権力下にあるばかりに、その労働力や技術や商戸のいとなみを、軍幕府の強要にささげてはいたが、もうどこかには、この鎌倉の運命を感じとっている顔つきばかりなのである。