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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

馬一頭曳いていない。

こうして、夕までに、海陸ふた手は、夜を待つべしと、義貞の計をうけて立ち去ったが、この間にも、行合川の陣場には、二家の新しい参陣者があった。

ひとりは伊豆の天野経顕。

もひとりは、父におくれて駈けつけてきた武州熊谷の小四郎直経の子、熊谷虎一だった。

どっちも、ひきつれて来た人数は少ないものだが、

「折もよし」と、義貞は、うれしく会って、

「そちたちは、運のいいやつだ。もしこよいを過ぎて来たら、秋の扇か、日和の傘、用にもされず、自分でも、武運つたない者と悔やんだろうに」

と、いって笑った。

そして虎一はすぐ父と同陣の、新田又五郎常政の手へ配属された。

どの部隊も、この宵は、たらふく食わされて寝ころんでいた。牛の群れみたいである。黒々と、行合川の海口ぢかい砂丘一帯にまでみえる。

いつか深々、寝込んでしまっている顔もあった。泥ンこな兵たち、欲も得もないような寝顔、それでも誰かが、

「月の出か?」

呟くと、すぐ薄目をあく。

亥の刻――十時ごろ――の月の出を合図にここの本軍全部は前進との内示だった。前進とは極楽寺坂の敵へぶつかることにほかならない。