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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

戦の駆け引きはしていられないのだ。あくまで無二無三でなければならない。海面で岩松の船手が、敵の大船列へ突ッこんで、元寇ノ役さながらの船戦を展開して、いくぶんの牽制はしていたものの、ここの干潟合戦の咆哮は、いつ果てるともみえない死闘の揉み合いだった。

そのうちに。

これがわあッと、北条方の敗勢と気崩れになって来たにはべつな理由がある。

彼らの心臓部――つまり極楽寺坂の郭内から――またその附近の高所低所から――火ノ手があがり出したのだった。潮風だし、傾斜地だし、一瞬に海をも染めてきたのである。

いうまでもなく、それはさきに田鍋谷から長谷山へ分け入った三木俊連の一隊が、霊山そのほかの高地をとって、敵の不意をつき、敵の本陣地への乱入に成功したものにちがいなく、そのため大混乱におちたらしい長谷、前浜あたりの叫喚がこの沖近くまで聞えてくる。

「勝ッたぞ」

義貞は、絶叫した。

「宮ノ党人三木勢にのみ名を成さすな。極楽寺坂はもう味方の足もとに踏まれている!」

新田勢はそれに乗じて、干潟を駈け抜け、極楽寺下、前浜あたりへ、一せいに駈け上がったが、郭内の防衛陣は、もう四分五裂となっていた。