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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

長崎の息子、甥ども、いずれもよく戦って、これへ返ってくる者がないのに、年も八十近いそのほうが、いちばん死に慾かいて惑うているのは、みぐるしいぞ。はははは、そんなにここが恐いなら、そち一人で鬼界ヶ島へでも何処へでも落ちて行け」

「…………」

円喜は黙った。赤面して、うしろへ隠れた。

一族御家人、なお千余人は、大庭せましと、充満していたのである。上を行く煙は刻々と黒さを増し、一報の聞えるたび、悲痛な揺れが、外門から内門を押し返していた。

すると、そこへ、

「尼公のお使いがお見えなるぞ。そこを通せ。武者ども、開け」

と、大声がした。――尼公といえば、高時の生母、覚海尼のことでしかない。その人からの急使だろうか。見れば妙齢なひとりの尼が、静かに、刀槍のあいだを平然と、高時の床几の前に案内されて来るのであった。

「おっ。春渓尼か」

高時は驚きの目をみはった。こんな修羅の戦場を、若い尼がどうしてただ一人で来られたかと、その姿へ、

「やれ、思わぬ客を見るものだ。誰ぞ、尼へ床几を与えよ。春渓尼、まずそれへかけろ。……して、母の尼公には、いかがしておいでになるぞ」

と、たてつづけに訊ねた。