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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

輿はすて、みかども、妃たちも、ここからは牛車となられたわけである。――そして朝霧もまだほの白いうち、兵庫をはなれて来たときだった。前駆の塩冶判官が、駒を返して来て、

「頭ノ殿、頭ノ殿」

と、行房へ告げていた。

「ただいま、行く手の先に、河内の楠木多聞兵衛正成が、家の子郎党をつれ、お迎えにと、これへ馳せ参じてまいりました。――後陣に加えましょうか、そのまま、先を打たせて進ませましょうか」

すると、行房の答えも、その奏聞もまたず、み車のうちで、後醍醐のお声がした。

「なに。河内の正成がこれまで来たとか。……車を止めい。そして、まずは正成一人に、ここへと申せ」

正成は、西の宮へ、今朝ついたばかりであった。「何は措いても……」と急遽、参向したのであろう。千早の籠城半年余の囲みが解け、死中に活をえたのも、つい二十日前のことでしかない。

だから曠れの凱旋の鹵簿をお迎えに――と、これへ来ても、正成はじめ、弟の正季、一族すべて、特別、身にかざる綺羅なよろい太刀や行粧などは持ち合せていなかった。錣のボロを縫い、具足の破れをつくろい、ただ肌着を清めて来ただけの姿なのだ。