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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

――古典によれば――正成七千騎ニテ参向、ソノ勢、殊ニ由々シクゾ見エタリ――とあるが、彼自身も以下の兵も、みな見じめな身なりで、しかもその大半が、まだ飢餓線上からよみがえったばかりの顔いろの悪い者やら、負傷者であったはずである。

「お召ぞ」

との伝令で、彼は歩いて、一人、み車立ての方へみちびかれて行ったが、気がつく者があれば、正成自身もすこし跛行をひき、その頬肉のソゲも、他の諸大将の比でない窶れ方と思われたにちがいない。

だが、衆目はそう取らず、かえってべつな思いをしたかもしれないのだ。「……これが百七十余日、敵数万の包囲の中で、千早の孤塁をささえて来たあの大将か?」と、その風采や太刀粧いの見すぼらしさに、ふと軽侮に似た案外な容子を、露骨にただよわせた人々もなくはなかった。

「……おん前に」

正成は言って、み車の轅の下に坐り、地へつけた両肱と平行に、かしらを低く垂れていた。

「楠木か」

と、後醍醐は、み車のすだれを掲げ、乗り出すように下を見て。

「……やれ兵衛、よく見えたの。思えばまた、よくも再会しえたものよな」

「はっ」

「笠置いらいか」

「は」

「そうだったな」