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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

「不服か」

と、相手の若い真額をにらみつけ、

「だから歩けというのだ。その不服を聞いてやるから、鶯谷のご陣所まで来いというのが分らんか。……どうした、若造。足がすくんで動けぬのか」

と、背を突いた。

そして、また小突き、また小突きに、若いほうの体が二十歩ほど前のめりに泳いだせつなのことだった。奮然と、若いほうが、身をよじり返して何か一声吠えたと思うと、すでに一方は斬られていた。――仰天して、抜き合わせたあとの一人もまた抜く手を過っていたものか、

「うッ」

と、相手のすばやい太刀にどこかを薙ぎられ、

「逃がすな」

と、だけは聞えたが、体は朱になって仆れていた。

わっと、弥次馬は、埃りをあげる。こんな喧嘩は毎日なのだ。だが、今のは酒の上や女沙汰でなく、双方が主名を称ってやった喧嘩だけに深刻だった。たちまち屯々の武者が駈けつけ、二人を斬ッた若いほうを包囲した。――一方の軽武装した若侍は、まだ逃げもせず、血刀をさげて茫然と立っていたから、すぐ新田兵の怒りの中に押し揉まれつつ、鶴ヶ岡の内へ拉致されて行った。

その日の夕である。

義貞は、柱にもたれて、独り蜩の声に目を塞いでいた……。