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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
ここの鶯谷は日蔭が早い。鶴ヶ岡の元神官屋敷そのままの営所で、まだ新田の館というものを、他に新築しようとしてもいなかった。
「いずれは、ここに腰をすえてもいられまい」
彼の注意も、また志向も、たえず中央の牽引力といったようなものに、ひかれていた。
これは武士ほとんどの気もちでもある。ここの焦土からは何の軍功の褒賞も得られはしない。恩賞として、土地の分けまえを貰うのも、官位や職にありつくのも、すべて中央から出るものだった。
高氏はその都にいる。
義貞は心やすらかでいられなかった。ひたぶるな鎌倉攻めを戦って、そして勝って、いま、甲冑を白い衫衣に脱ぎかえ、蚊やり香の糸に閑な身を巻かれてみると、あだかも血の酔いから醒めたような、むなしいものだけが心に澱んでくるのだった。――こうしている間に、高氏にしてやられそうな、焦慮に駆られずにいられない。
「……?」
ふと、そのうちに、彼は柱から背を離した。手の唐団扇で蚊うなりを一つ払って。
「たれかおるか」
すぐ、次の廊口で、
「はっ、新兵衛これにおりますが」
「なんだ、表のあの武者声は」
「ただいま、ご舎弟も見にゆかれましたが、何やら、ご家中の血気者が物具取って、扇ヶ谷へ仕返しに行くとか、いや先から襲せて来るとか、ただ事ならぬ騒ぎのようにござりまする」