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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

苦労もたりないと知っている。前途の大きな多難は、京洛の盆地をかこむ山々のように彼には見えていたのだった。

何の召か。

朝廷での朝儀はいともおごそかだった。

皇居はいま、二条の里内裏にあるので、紫宸、清涼の階ではないが、御簾ちかく彼を召されて、特に、賜酒を下され、そして音吐まぎれなく、帝じきじきのおねぎらいであった。

「高氏。――以来、六波羅にあって、治安の難に当るやら雑訴を見るなど、くつろぐまもあるまいに、よう精励いたしおるな」

「は。……なかなか以て、ゆき届かぬことばかりでござりまする」

「ただの治世とは違う。そちならではと、思っておるぞ」

「御諚、身に余ります」

「長通、叙位を申しわたせ」

「は」

右大臣久我長通が、すすんで彼へ辞令をさずけた。先の位記を一階昇げ、あわせて武蔵守、鎮守府将軍に任ず、という朝命だった。

そのうえにも、後醍醐は、

「わが諱(実名)の一字をとらす。……以後は、高氏をあらためて、尊氏となすがよい」

と、いった。

後醍醐の名は、尊治である。――北条高時の高を高氏の名から捨てさせたいお心もあったのか、何しても一武臣へ、これは破格なことだった。