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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
「それは、あいにくだ。二十日の夜は、そうしておれぬ」
「なにか、ご政務でも」
「きょうきめたばかりだが、石清水へ詣って、二十一日二日と、参籠の約になっておる」
「…………」
ふと、歓声とほこりが馬場のほうで沸いた。十番の競馬のさいごの騎手が、もう勝負ノ標の彼方からこっちへ馬を返してくる。――桟敷の公卿百官から武臣たちも、すべて天皇、准后、東宮のほうへ起立の拝をみせていた。還御の太鼓のうちにである。
便殿へ入られても、あとは優勝騎手への賜謁だの、近習の奏上やらで、玉座は衣冠の群れのたえまもない。で、みかどが、すぐそばの廉子へもう一ト言、何か仰っしゃりたいとしていることも、なかなか、くひまが見つからなかった。
そのうちに、諸官はみな、御車寄へなだれていった。つづいて後醍醐も准后も立座して、廊を並んで歩みだした。そのとっさ、歩々のあいだに、帝は、廉子の横顔をチラと見て言った。
「……盲の法師やその母ぐらいはよろしいが、かまえて、足利家の人間を、東宮へ近づけてはならんよ」――と。
御車寄の階下には、その足利家の高ノ師直、また、近衛の武将新田義貞、名和長年など、天皇のお目からみると、どれも御し難い面だましいが、敷波に充満していた。