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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

「あの藤房卿までが、そう言いましたか」

「いえ、その藤房卿からじかに聞いたのではありません。けれど、あねぎみもお聞きおよびでしょう。……藤房卿がお上へご諫言して、その夜のうちにやしきを捨てて、どこへともなく姿をかくしてしまわれたあの事件は」

「お。おとといの夜とか」

「そうです。……それも宮のおそろしい御腹中が近ごろ歴々とわかってきたので、万一にも、陛下と宮とのご父子の間に、憂うべき事態でも起ってからではと、あのまじめ一方な藤房卿のことなので、怏々と、思いあまったあげく、おかみへお諫めしたものだろうと、みな評判しておりまする」

「でもなお、おかみはお耳にいれなかったというのですね」

「……え。藤房卿の突然なご出家は、たしかに、それも一つの原因に相違ございませぬよ」

廉子は黙った。理性と瞋恚のあいだに迷いぬく姿であった。

一方は後醍醐の正子。一方は父皇のいわゆる愛妾である。大塔ノ宮と廉子とのあいだは、さなきだに、すぐ棘だちやすい立場にある。

宮からみれば、准后と彼女を繞る一派の者は、

警戒すべき後宮の癌

であり、政治上最も忌むべき、

女奏

という女のさし出ぐちも我慢ならぬものだったに相違ない。