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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

なおまだ落ちずにいた女院や女房たちもオロオロ見え、それの介添えして行く老いたる尼のたけた気なげさには、死も一つに、としている容子がたれの姿よりは濃くみえた。かくておよそ宮廷人ばかりの百二、三十名が、どっと北御所から薔薇園の大庭へまろび出て、あとは暗い夜風のなかをヒタ走りに喘ぎあった。

たれも身に持った物など何一つない。すでに、賢所の神鏡(三種の神器の一つ)も、こうなるまえに、北山の西園寺公宗の邸へひそかに遷してあった。

「や、あの兵は」

「お驚きなされますな。お味方です」

「探題たちか」

「六波羅松原に残余の兵を呼びあつめて、共々落ちゆく者どもでござりまする」

そこではみな、つかのまながらほっとした。

千余騎の将士など、たのむに足らない少数だが、それさえ心づよく見えたのである。

光厳の弟ぎみ、梶井ノ二品親王もここへ来合わされ、御門徒の勝行房、上林房以下二、三十人の法師武者らとともに落人の列に入った。――火の粉をもった黒けむりが団々と西から南から三十六峰の上をたえまなくかすめてゆく恐い夜空の下なのである。

「いくさには敗れましたが」

と、探題の仲時、時益のふたりは、みかどの前にひざまずいて、こもごも、なぐさめを言上していた。