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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

断じておこなえば鬼神も避くとか」

「逆上するな」

「良忠、逆上はしておりません」

「ならば、この雪の降りやまぬまに、夜来集めた兵をすぐさま解け。それしかない!」

「では、どうありましても!」

「…………」

ご返事はなかった。

じつは残念さ彼以上にもちがいない。その我慢のみえるお背を、渡りの彼方へ見送りながら、殿ノ法印もふたたびそれに追いすがる気力を土気色な顔に失っていた。

するとあわただしい一家士が彼を見つけて駈けよって来た。

「法印どの。宮中からお使いです」

「えっ、宮中から」

「ご勅使とあって」

「どなたが」

「弼ノ大外記師行どのとか聞えました。恒例の初雪の御文とかで、宮のお返辞をいただきたいとのことにござりまする」

「時も時に?」

と、殿ノ法印のふとした疑心は、小首をかしげる。

宮中から大塔ノ宮へ、不時のお招きというのも気がかりだが、初雪見参のお催しなども珍しい。

まことに今日は、今年の初雪だが、しかし宮中で初雪の御宴がもよおされるなどの古例も、世上不穏のため、久しく絶えていたことなのである。

とはいえ、世も一新の平時と帰した今日とすれば、それらの古風な御遊が復古されたからといって、別条、あやしむことはない。