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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

ただ場合が場合だけに、彼はふと、何か疑念をともなわずにおられなかったまでだった。

「……いかがなされまするな。御使の弼ノ大外記は、否やのお返辞を持ち帰りたいよしで、お待ちしておりまするが」

宮のおすがたを奥に捜し求めて、やがて彼は、召の御文を取次いでいた。

おそらくは、妃ノ君のお部屋かと彼は想像していたが、そこにはおいでなく、火の気もない一殿に、宮はひとり仰臥して、じっと、天井を見つめたまま何か思い耽っておられたのだった。

が、すぐ起きて。

勅

と聞くや座容をただし、多少、お迷いの風はあったが、確といわれた。

「良忠。――御使へは、こうお答えせい。不時のお召、少々は手間どるかもしれませぬが、おそくも宵過ぎぬうち、きっと参内つかまつりまする、と」

「はっ」

と、良忠は、かしこまったような平伏を見せていながら、すぐ起とうともしなかった。

「……宮さま」

「なんだ」

「もしお心がすすみませなんだら、そこは、ご風気とも、おさしつかえとも、よろしきように、良忠から御使へ、申しつくろうておきますが」

「それには及ばん。初雪見参の御遊とは、近ごろ珍しい」

「いえ、勅ではありましても、廟議の大事ではなし、ご欠席あそばしたところで、あながち何も」