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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

ふとしたら、こよいは帰れぬかもしれぬ」

お妃は、その背のきみを、渡りまで見送ってから、戻りには突と涙ぐまれてしまった。――こよいは帰れぬかもしれぬ――と宮の何気なく言い残されたことばの端が、なぜなのか、心にせぐり返された。

はや車寄には、随身たちが頭を揃えていた。つねの参内ならずとして、これも殿ノ法印の用心か。屈強なのが、供人の装いで、こぞッて、轅の両わきにひざまずいている。

宮は、二品の親王、征夷大将軍の正装で、束帯のすそを侍臣に持たせ、車びさしの下へ、上手にお身をかがみ入れてから、外の殿ノ法印へ。

「良忠。供はいつもの顔と変っておるな」

「は。念のために」

「輩は、誰と誰か」

「木寺相模、平賀三郎、矢田彦七、岡本三河坊、野長七郎など。吉野いらいおそば離れぬ者どもは、みなおん供を申し出で、先駆、お供後の警固につかんと言いおりまする」

「そちも行くか」

「は。参らではなりませぬ」

「風雅な御会へまかるのに、ちと仰々しくはあらざるか」

「さような態は見せませぬ。いらざる供は省いて、選り抜いた男ばかりを連れまいることでござりますれば」

「あくまでそちは疑い深いな。あつものに懲りて膾を吹くというやつか」