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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
兵の腕ずくで引っ立てさせる!」
「しゃっ、待てっ」
宮は、寄りたかる武士を、両の肩で振り退けた。足でも蹴とばした。そして、
「父ぎみ!」
ど、ど、どッ――と盲目的に駈けまろんで行き、彼方の夜ノ御殿のひそまりへ向って、
「父ぎみ。これはまったくの御叡慮か。ただしいお旨を聞かせてくださいッ。父ぎみ」
と、その体じゅうを振りしぼって叫んだ。
もちろん瞬間のことでしかない。お声はすぐ追いかぶさった武者たちの下になっていた。あとはもう論外な暴としか言いようもない。宮を拉した武士たちの足音は遠ざかる雷鳴みたいに殿廊をつたわって消えて行った。
「…………」
始終の様子を、その物音の遠くになる果てまでを、殿上の“櫛形の窓”のあたりで聞きすましていた女性がある。准后の廉子であった。
彼女の影は暗がりで見る玉虫の妖しい光さながらに、やがて、みかどのおられる中殿のほうへサヤサヤ裳を曳いて行く風だった。そしてまもなくこう御座へおつたえしているのが声低く洩れていた。
「お上。事はただいま、武士どもの手でまずは難なくすみましてございまする」
みかどは、中殿の大きな黒塗りの文机におん肱をのせ、その上へ俯伏しておいでだった。