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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

もっとも、主を替え名を変えて、他家で余生を働いた者が全然なかったわけではなかろう。ただいかに人命がちりあくたの如くあつかわれていたか、この一事でも推知されようというものである。

かくて、月を越えると、宮の御処分は、関東方へ御預けと、事きまった。

関東とは、いうまでもなく、現下、足利直義のいる鎌倉の府である。――すでに冬も荒涼な十一月十五日――尊氏の一族細川顕氏が警固のもとに、大塔ノ宮は、あずまの空へ押送されて行った。侍きには“南の御方”という女房ひとりが供をゆるされただけだった。

なにしろ威名を天下に振るわせていた宮である。

直義をはじめ在鎌倉の面々は、猛虎のように恐れ扱ったにちがいない。――ただちに二階堂薬師谷の東光寺に押し籠め奉って、昼夜、きびしい軍兵監視のもとにおいた。

それはただの流人にもまさる暗い幽窓の拘束であったろう。が、よく聞く大塔ノ宮の、

土牢

というのは嘘である。ただの伽藍の一室だった。

にもせよ、きのうのお身とは余りな変り方である。権勢。それに寄りたかる人の美言。いったい人間を眩惑してやまぬそれらの正体は何であったのか。

さすが剛邁な宮も、これへ来てからは、打ち沈んだお姿で、まったく物を仰せられない日が多かったといわれている。