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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

そして、或る折には、お独り言に、

「尊氏も憎いが、こうなっては、いっそ尊氏よりも、父の皇がうらめしい」

とお洩らしになったとか。誰が耳にしたわけでもあるまいが、「梅松論」の著者も、

ふと

お独り言ありけるとぞ

もれうけたまはる

と、書いている。

おそらく時人がみな、そんなふうに、宮のご胸中を推量していたものではあろう。とにかく、時局の不利、その禍因のとがすべてを一身の責めに負わされた犠牲者として、人々は宮を傷んだ。しかもその陰謀は、天皇も元々よくご存知だったとは「押小路文書」その他、当時の公卿記録にさえ、明らかなのである。――いっそ父の皇がうらめしい――といわれたという流布が巷間におこなわれたとしても奇異ではない。

すぐ年は暮れていた。

建武二年に入る。

大内裏造営の事業などは、外記ノ庁内に役署がおかれて、

造営事始

の式は挙げられていたが、じっさいの工はすこしもまだ進んでいない。それに要する周防材や備後材などの国々からの運上にせよ、土地の武家と中央の令との折合いがさっぱりつかず、いたずらに国費を食っているだけだった。――楮幣のよびおこした物価の昂騰もようやくひどいものになってきて、これまでの定賃金では「働き働き、食えなくなる――」