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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
直義がその牢御所をお預かり中、朝夕、篤と注意していたが、しょせん、檻の中でも虎の性はあらたまって来てはいない。野に放てば行くすえあくまでわが足利の大敵だろう。……な、伊賀。これは兄尊氏どのの仰せつけとも聞け。不日、そちの功はかならず兄上へも達しておく」
直義と尊氏とは、つねに一心同体である。いつも兄の公然果たしえないことは直義がやる。やり過ぎもままあるが、大望達成の目標においてそれも二人を不和にはしない。――直義がいま信じているものもそれだった。
「では、これで」
やがて、淵辺が身を地から剥がすように立つと、直義もまた。
「そうだ。おれも急ぐ。くれぐれ抜かるな」
すでに井出ノ沢一帯の敗残の陣は放置され、先をいそぐ悲壮な人馬の群れが彼方の闇で直義一人を待ちわびていた。
「…………」
淵辺だけはあとに残る。
そして直義以下の、味方すべてが敗亡の駒音を捨てて遠く落ちて行ったあと、彼も自分と郎党ぐるみ八騎ほどでとぼとぼ抜け道をたどり出した。――明けまぢかに、山ノ内街道をこえ、そっと、鎌倉へもどっていた。
その日も諸所方々の小合戦は熄んではいない。
敗戦のつねだ。