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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
――直義のさしずでは助かるみちはない。――絶望的なおひとみだった。そしてふと、下種武者の畏れ硬ばった構えに隙を見つけたかのようでもある。反射的に、淵辺は一ト腰そのからだを斜めに退いた。それは右手を太刀のつかにやった自然な反動でしかない。とたんに、彼の抜く手がおそかったというよりは、宮の猛然たる動作が彼に勝っていたといえよう。宮の白いおすがたは床を蹴ってわれから跳び、淵辺伊賀守のごつい体をでんと押しかぶせに捻じ伏せておられたのだった。
「うおうっ」
「かっ」
「う。う」
淵辺の足は宙を蹴りぬく。
すぐ、宮のおからだも縒り糸のように具足の諸足で捻じ縒られる。
灯が仆れた。
なんともかとも凄まじい。無色の中の物は、ただの生ける物と生ける物でしかなくなっていた。声もはや人間の声ではない。どっちか蛮力のあるほうが勝つだけだった。やがてのこと。耳をふさぎたいような唸きとともにがつんと爼板の上で庖丁が魚骨でも斬るような音がした。――同時に一個の影は、血ぐさい蚊うなりの闇を、ふらふらと、そとへ歩きだしている。
ひらっと、人影は、縁を跳び下りた。するとどこかで彼の思わざる女の悲鳴がした。