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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
白いもの?
そのお人はぬりごめの内でたったいま手にかけてきたはずだと思う。その宮があとから自分を追って来るはずがない。淵辺は、混濁したあたまの認証をたしかめるように、抱えていた重い物のもとどりを掴んで、ついその死に顔を見てしまった。無念を噛んだお唇もとはただ蝋のごときものだった。けれど淵辺には宮のおん目とお口がカッと開いて、せつな、自分の五臓へ咬ぶりついて来そうな形相に見えたのかもしれなかった。――さもなければ、いかにといえ武者にあるまじき小心ぶりというしかない。ひえっ! とばかりに、おぞ毛をふるい、かたわらの藪だたみ目がけて宮のお首を抛り捨て、やっと身軽となるやいな、後ろも見ずにその醜い姿をいずこともなく晦まし去ってしまったものである。
後に。
お首は理智光院の長老が拾いまいらせてかりの埋葬をいとなみ、南の御方は泣く泣くおかたみを持って京へのぼって行ったとつたえられている。京にはうら若きお妃やら乳の御子もおわしたのだった。いやいやたれよりは雲居の深きところでこの変を聞こし召された、父皇後醍醐のご感慨こそ、何とあったか。
俗説土牢はうそで、まことは一寺院のぬりごめにおいての御受難であったとさきには書いたが、おもえばそんな末端事は訂正してみても訂正のしがいはない。