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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

問題はつぎの日だった。

――愛知川、小野、四十九院、摺針、番場、醒ヶ井、柏原。そして、伊吹のふもとまで、つつがなければもう近い。しかし、遠いここちでもあった。

仲時は大事をとって、

「六角勢は後陣となって、尾きまとう野伏ばらに、防ぎ矢しつつおあとからまいられい。――また糟谷三郎宗秋は、さきを駈けて、よりつく賊を打ち払い、おん輿の行く道を開け」

と、命じて出た。

伊吹までは、あと一日半か二日路である。伊吹の城にさえたどりつけばと、とくに仲時は細心であったが、やはりこの日も先々で野伏の襲撃は依然まぬがれえなかった。

野伏が襲ってくる地点にはほぼ条件がある。「出そうだ」と思われる所に出てくる。おおむね、埋伏、視野、遁走に都合のよい山岳をうしろにしている。

その夕。すでに犬上郡へ入って、摺針峠から不破にわたる山々の重畳をまえにしていた主上、法皇、女院らの輿と輿廻りの人々は、

「はや山風も……」

と、それの怯えに吹かれていた。

折も折にである。道の不安を打ち払うため、一隊で先駆していた糟谷宗秋が、

「お止まりください。この峠、うかとは進めませぬ」

と、引っ返して来て、仲時以下を寒からしめた。