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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

こんな数は容易でない。

乱世の下、たしかに野伏、追剥ぎ、あぶれ者は多かったが、六波羅陥落の実相も、よほどな早耳でなければ、まだよく知りえないはずの直後であった。それが山奥の伊勢ざかいまで聞えて、はやくも美濃近江の要路、摺針峠から番場へかけ、こんな結集をみせたのは、どうもただの烏合の衆にしては出来すぎている。

たれか、この烏合には、指揮者があったに相違ない。

その指揮者もだ、よほどな策士がいたといえよう。――なぜなら、このあぶれ者の大衆のうえに、錦の御旗を持たせ、上には、後醍醐の御子“五ノ宮”がおられるのだと称えていたのでもそれがわかる。おそらくこれは衆愚を駆り立てる策士の策であったろう。これまで“五ノ宮”などという皇子の存在は世間のたれも知っていない。按ずるに、錦は錦でも、それは無知な野性を駆るための衆愚の旗、つまり擬勢だったにちがいない。

その旗を、仲時も見た。むらがり寄る野伏勢の、うしろの遠くに、ひるがえるそれを見て、

「偽錦旗?」

怪しむと同時に、

「しまった」

と、今はさとった。

ここから伊吹の城はいくらの距離でもないはずだ。二里余の彼方にすぎない。