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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
賊の射る矢は、ほとんど集中されてくるので、小半日の合戦には、一向堂のかべ、とびら、ひさしなど、まるで傘の骨みたいに矢が刺さッた。
しかも、こなたからは、射る矢もすでに尽きていた。敵の矢を拾ッて番える弓の悲しさは言いようもない。口惜しさ、苦しさに、たえられなくなり、
「くそうッ」
と、顔を阿修羅にして、むらがるなかへ、吠えつつ駈けこんで行った者は、すべてそれきり帰って来なかった。
はじめは、六波羅落人のみなゆゆしい甲冑に、多少おそれを示していたあぶれどもも、次第に相手の足もとを見、わんわんとその包囲をいよいよ厚く、また近々と、圧縮してきた。そして口々から揚げる口ぎたない呶罵、嘲弄、笑い声まで、嵐とばかりきこえてくる。
「三郎っ……。宗秋」
仲時の声だった。それも喉にひッつくような、かすれ声で、
「来てくれ」
と、一向堂の階に、朱まみれな姿を、よろと、くずして呼んでいた。
糟谷三郎は、その声を、顔で捜している。目から半面へかけての血しおで、人相も変っていた。
「お。北殿」
「三郎か。もうだめだ」
「な、なんの……」
「いやだめだ、残念だが」
「ならば、一せいに、賊のうちへ駈け入り、斬ッて斬って斬りまくりましょう。