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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(一)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 頁

青空文庫

三

お甲

お通さま

もう一つの書状は、正しく本位田又八の手蹟なのである。それにはくどくどと帰国できない事情が書き連ねてある。

つまるところ自分のことはあきらめて、他へ嫁いでくれというのだった。実家の母へは、自分からは手紙にも書きにくいから、他国で生きているということだけを、会った時に、告げておいてくれなどとも認めてある。

「…………」

お通は、頭のしんが、氷のようになるのを覚えた。涙も出ない。顫きながら紙の端を支えている指の爪が、先刻、使いの途中で見た死人の爪と、同じような色に見えた。

三

部下のすべては、野に臥し山に寝、日夜奔命に疲れていたが、どじょう髯の大将は、本陣の寺をむしろ安息所ともして、悠々と泊りこんでいるため、寺では夕方になると風呂をわかすとか、川魚を煮くとか、佳い酒を民家からさがして来るとか、毎晩のもてなしもなかなか気づかいであった。

その忙しない夕暮になっても、お通のすがたが厨に見えないので、きょうは、方丈の客へ膳を出すのが晩くなった。

沢庵は、迷子を捜すように、お通の名を呼びながら、境内を歩いていたが、機舎の中には、筬の音もしないし、戸も閉まっているので、何度もその前を通りながら、開けてみなかった。