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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(一)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 頁

青空文庫

二

加うるに、ここは高原なので、十方碧落身をかくすべき一木もないし、高低もない。

夜陰に乗じて事を為遂げるのは、元よりこんな場合の法則だが、その夜も来ない夕刻から、番所の前の往来は、一の柵も二の柵も閉まって、すわといえば鳴子が鳴りそうだ。

(近づけない!)

武蔵は、腹のそこで唸った。

そして二日の間も、十国岩の下に坐りこんで、作戦を考えたが、いい智恵もなく、

(駄目だ!)

と思った。一死を賭してもという気力は先ずそこに挫かれた形である。

(はてな、俺は、どうしてこんな臆病者になったのか)

すこし自分を歯がゆくも思った。――こんな弱い俺ではなかったはずなのに、と吾に問う。

腕ぐみは、半日経っても、解けなかった。――どうしたものか、怖いのだ! 頻りと、その番所へ近づいてゆくことが怖いのである。

(俺は、怖がりになった。たしかに、ついこの間の俺とは違ってしまった。――だが、これは一体、臆病というものだろうか)

否!

と彼は自分で首をふった。

この気持は、臆病なために起っているのではない。沢庵坊から、智恵を注ぎ込まれたためだ。盲目の目があいて、かすかに、物が見え始めたからである。