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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

線上閱讀柳田 国男《故郷七十年(こきょうしちじゅうねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 頁

青空文庫

この文集には、まだ他に「三木公逢に与えて仏を論ずるの書」というのもある。これなどは、いまなお私が興奮を覚えるほどの大文章で、あて先の三木公逢は村の大庄屋の若主人、すなわち私が一生親しくしてもらった三木拙二翁の祖父である。すぐれた素質の青年であったかと思われて、若いころに大阪に出て、中井竹山先生の門に入って研学し、莫大な文庫を家に留めておられるが、学問が過ぎたのであろうか、三十いくつという盛りの年に世を去って、幼い一人子が後に残った。それが拙二翁の先代の承太郎さんである。

虚弱で、いたずらで、小生意気な十二歳の少年が、どうして一年足らずでもこの家に預かってもらえたのか、いま考えてみてもその動機がはっきりしない。拙二翁はその頃、たしか神戸の良い学校に入れられて家にはおらなかったが、あとには妹たちがたくさんいて、少しも寂しいことはなかった。

私の父は、この家の莫大な蔵書を良く知っていて、自分が不自由をするにつけても、毎度そのうわさをしたけれども、家も離れていたのでそうひんぴんと出入りする風はなく、それに、仕事の必要から、いつも五里、三里と外歩きをしていたので、めったに、この家の集まりに参加することもなかった。