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こきょうしちじゅうねん

故郷七十年

柳田 国男

線上閱讀柳田 国男《故郷七十年(こきょうしちじゅうねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 頁

青空文庫

姫路時代

現在、吉田の井上家を引受けてくれている山口直泰君は、この大三郎の息子さんで、私はいまも親類づきあいをしている。私がいつも山口家を訪ねて辛いのは、健康で聡明な理想的跡取りであった兄嫁マサを、赤痢のような伝染病で、しかも身重のまま亡くしたということである。

姫路時代

次兄は暫く独身でいたが、やがて日置黙仙という禅僧のすすめで再婚した。黙仙が眼を悪くして、大学の河本眼科に入院した折、どういうものか井上の気質に惚れ込んで、治ってからも時々、御徒町の井上医院にやってきた。そうして世間知らずの坊さんのくせに、仲人などをしたものらしい。この縁組をみた井上の歌の先生、松波資之翁が、日置黙仙と一座した時、「和尚、もう一遍入道せんといかんのお」と、いかにも人をくった警句をいわれたそうである。脇にいた中川恭次郎が、坊さんは何と返事をするかと思っていると、困った顔をしながら、「何をいうぞい」と応答したとか。「あの勝負は明らかに松波さんの勝だったね」と、後で中川が私に話したことがある。

新しい兄嫁は極度の善人で、私らはいつも同情はしていたが、家風のきびしい家には不適当な人であった。