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こきょうしちじゅうねん
故郷七十年
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《故郷七十年(こきょうしちじゅうねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 257,350 字 · 507 頁
亭主は勿論ひどく喜んで、いつも私たちにまで好意を示して居た。後に北条に移住したので交際が絶え、結局は別れたとか死んだとかいう話も耳にして居るが、母の自信は其為にはまだ崩れなかった。
さて話が長くなって、ちっとも序文らしく無くなったが、私の考えて居たのはこの続きとして、夫婦喧嘩の時代相とでもいうべきものを、現代人の為に説いて見ることだった。私などの少年時代には、ちょうど北斎漫画の第十二編にあるような、擂鉢と擂粉木との打合いが、裏長屋から広く田舎の小都会にも拡張し、夫婦の話し合いでもし結着が付かぬならば、広く公衆をして判断せしめようという戦法が採用せられ、効果を挙げて居たようだが、程無くそれも馬鹿げた企てになって、もう流行はついに去った。
大正の末の頃に、門司の港の片端で、わめきつつ家を飛び出す古女房を見かけて、ここはまだ古風ですねと、案内の人に語ったところ、あれは朝鮮人ですよ、あの仲間にだけは今でも流行しますよというような答であった。
中国でも其頃の江南地方には、あの方法が男同士、稀には車夫と御客との間にも、路行く人に聴かせて裁判させようとする風がごく普通だったが、あの方法は今は恐らく、効果の薄い因習となって居るだろう。