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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁
ただおからだのみは御自身のものだから、天寿に仕えて素直にお持ちあるように。――それ以外、お餞別のことばとておざらぬ。お大事にお出ましあれ」
その時。
茶を煮るため、奥の清泉を汲みに行った一僧が突然、手桶を抛って、何か大声をあげながら、木の間を駈けだしていた。
鹿の駛るような物音が寺園の奥に響いた。その跫音を追いまわしていた一僧は、やがて息を喘ぎながら茶屋の庭面へ駈けて来て、
「はやくお手配下さいませ、怪しい者をただ今、とり逃がしました」
と、告げた。
この寺内に、怪しげな者などいるわけはないが――と、快川がたずねると、その一寺僧は、こう云い足した。
「まだ和尚のお耳には入れてございませんでしたが、実はその者は……昨夜おそく門をたたいて、わたくしどもの房へ泊めておいた旅僧でございます。――それも時節がら見知らぬ僧なれば、もちろん泊めもいたしませんが、顔を見ると、以前、お館の乱波組におりまして、御家中の方々と、寺へもよく来たことのある渡辺天蔵どのなので、仔細はあるまいと、同房の衆とも計らって、一泊をゆるしましたところ」
「待て、待て。……それはなお不審ではないか。