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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《梅里先生行状記(ばいりせんせいぎょうじょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 頁

青空文庫

十八

「では、供をせい。……ぼつぼつ彼方へ参ろう」

いいながら、老公は、しとねから起った。

夜来、側近の者どもすべてに、きょうの物々しい手配は水ももらさぬように命じられ、ここまでは、ただ老公の命のまま仕果して来たが、これからのことは――老公の意中は――那辺にあるものやら、介三郎にもとんと解っていなかった。

十八

舞台はいま、うしろに画いてある一幹の老松のほか、何もない空間となった。

志村金五郎のワキで羽衣を舞った老公のすがたが、あざやかに橋がかりから鏡の間へかくれ、つづいて囃子方、地謡が静かに退いたあとである。

ほっと、観衆の息が、大きく放されると、ゆるい波のように、おちこちの囁きがわいた。

「何というお健やかな」

「お年齢とも思われませぬ」

「芸のお力……」

「いえいえ、天性のご気品」

「いずれにしても、いまのお舞振には、拝見のものが皆、めでたさに、瞼を熱うしたでございましょうな」

ちょうど、時刻は午。

家中の家族たちへ、殿よりとして、弁当の折と、打ちものの菓子の包みとが、ひとりひとりに頒け与えられた。

うしろの大書院の見所を見ると、いつのまにか、太守も奥方も侍女も、すべてほかへ移っていた。