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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《梅里先生行状記(ばいりせんせいぎょうじょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 頁

青空文庫

二十三

「介三郎、毛氈を」

ひかえの毛氈を持って来て、介三郎が、死骸へかぶせていたときである。あわただしく、後見たちが楽屋からはいって来て、光圀を促した。

「はや、舞台のお時刻でござりますが」

二十三

「――時刻か」

「はっ。おしたくは?」

後見や装束方、そのほか、鏡の間の異変に、期せずして混み入って来た家臣たちは、毛氈に蔽われている紋太夫の死骸よりも、まず光圀の面を仰ぎ合って、ひとしく生唾をのむばかりだった。

「よかろう」

光圀は、鏡の前に立って、半切や龍神巻の袖をあらため、

「介三郎、うしろは?」

返り血はかかっておらぬかと訊ねたのである。介三郎が、何の汚れも見えませぬというと、うなずいて鬘桶にもどり、

「仮面をつけい」

と催促した。

後見と装束方が寄って、光圀の顔に仮面を当てる。また、龍神の赤頭をかぶせる。

「中啓を」

「はっ」

手渡すと、もう光圀ではない。春日龍神そのものだった。

囃子方の音調べとともに、ゆらりと龍神は立った、足袋のつま先が上がる、すべるように踵がすすむ。

「――お幕っ」

声とともに、龍神は橋がかりへ出ていた。すでに水を打ったように出を待っていた、見物の眼は、ひとしく舞台にこころを奪われていた。