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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁
ひとり道なき山の沢を迷っているのは金吾の影でした。
いや金吾のみならず、あの関所の人数が暴風のように千鳥ヶ浜を襲った後は、みな散々ばらばらになッて、八方へ敗走せざるを得なかったでしょう。
「残念至極……あの事さえなければ、たとえ刺しちがえるまでも、日本左衛門のやつを生かして置くのではなかったのに」
と、金吾は道に迷いつつ、道に迷っている当惑は念頭にありません。
体も綿のごとく疲労しているはずなのに、なお、時々、つぶやくことは、かれを打ち損じた無念。一太刀の怨みを酬ゆることのできなかった心残り。
が反対に、相手の日本左衛門にいわせれば、もう一足捕手の殺到が遅かったなら、金吾の五体を膾斬りにしてくれたものを――と、今頃はどこかで、舌打ちをしているのかも分らない。
とまれ金吾は、今夜の機会を逃がしたにせよ、またいつか一度は、きッとこの報復を思い知らしてやるぞ――と迷える道を歩むのでした。
どこへ?
この迷える道をどこへ歩もうとするのか?
それは金吾にも分りません。
かれはただこれから先、どこまでも生きなければなりません。出目洞白の仮面を万太郎の手で尾州家の元の宝蔵へ納めるまで、必ず生き通さなければなりますまい。