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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁

青空文庫

入れ札

「なにしに否やの候うべき」

「は、は、は、は、こういう相談で破談になった例しがねえ」

「親分」

「親分、あっしも」

「てめえたちは鼻の穴でも洗って、どこかへ勝手に散らかるがいい」

チリン、チリン、チリン、と分け前の小判が、こんな中でも燦然とした光をもって、各の手のひらへ一枚ずつおどる。

「じゃあ――行こうぜ」

「灯を消せ」

日本左衛門の声を最後に、ふッ……と前後に吹かれた息が、さらぬだに暗い真のやみを呼び落しました。

「…………」

ズ、ズ、ズ……と一同の擦り足。

先にやみをなで廻して、官庫の戸の内側をさぐッて行ったのは、先生金右衛門であったらしいが、さわり合っているそばの者も、匂いで知るほか誰やら判じがつかない。

鉄のような分厚な欅の一枚戸。

そこの心張棒へそッと手がかかった時、金右衛門の第六感をビクッとさせたのは、その外の声なき空気でありました。

入れ札

女性のねばりづよい執着。

そのあるかぎりの精を蔵の戸に賭けて、お蝶はさっきから何ものもない様子で、そこを開けないうちは去り得ぬ心理になっている。

開かッたが最後――どんな大変がわくか、どんな危難が身に落ちてくるかも知らずに。