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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁
無名神
無名神
それから程なく。
夜立ちと見ゆる二挺の駕が、筑波屋をあとに宵を急いで、江戸川の土手へさしかかッて来る。
「あ、駕屋さん」
うしろの一挺でこういうと、駕の内からお粂の白い顔が外をのぞいて、
「すまないが、ちょっとここで降ろしておくれ」
「なにか、忘れ物でございますか」
「少し、思い出した用があってね……。私は、すぐにまた戻ってくるから、おお、すじ向うに居酒屋があるらしい、あそこでしばらく休んでいておくれでないか」
「ヘエ? ここで、お待ち致しているんですか」
「病人は、駕の中へ残しておいてもいいけれど、寒くないようにしてあるだろうね」
「駕蒲団を厚く入れて、こうしてございますが」
ひとりがタレを上げて中を見せますと、お粂はニッ……とうなずきました。
来の了戒の大刀に、衰えた肩をもたせかけ、膝を友禅の小蒲団にくるんで、相良金吾は昏々と眠っております。
なんという奇病――業病――かと金吾の焦れる病の謎をとくものは、お粂以外にはないでしょう。筑波屋に滞留中も、附近の医者にみてもらいましたが、所詮、病の名すらも分らない。
さっきも、駕にのるまでは、人手も借らずに乗った病人ですが、もうここまで来る間に、いつものような昏睡に落ちて、呼べどもさめるふうはなく、了戒の刀を抱いて俯向いたまま、おのれの駕の行く先も知らぬ無明の旅の