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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁

青空文庫

そう考えたのはあとのまつり。みずからその道を断ってしまったのですから、今夜のことは、まず一段落と諦めるよりほかにない。

「なあに、あしたの日もあることだ。どの道あいつの姿はこれで確かめたのだから、何も、今夜が今夜にと急ぐこともなかろう」

諦めをつけてみると、むしろ、さッぱりと清涼な夜気にふれて、暫く足でも休めたい。

で、腰をおろしました。

火打石をさぐって、スパリと一服くゆらして見る。

失策を諦めたあとの一服も、まんざらわるいものではありません。独りごとに……

「そうだ、さっきの娘も、どうせあのあんばいじゃ四、五日は起きられまい。金右衛門がついているから、おれは茶屋へ戻らずに、このままどこまでもお蝶のやつを追いつめて行ってくれよう」

煙管を頬について、しばらくはいい気持でいる。

すると。

いったん清涼になりかけた彼の気持が、また少しコジれだして来ました。――そこに落着いていると、宙を隔てた向うの崖に、まだそこを去らぬお蝶の影がうッすらと見えるのでした。

――こっちへ向って笑っているような気がする。

何か自分をあざける如き手振りをしているようにも見えます。