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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁

青空文庫

しかし、振顧って、また招いた久助の眼ざしに、何かしらやさしみがこもっているような気がしたので、ふと、

「尾いて行ってみようかしら?」

と、彼女のいたずらな心がうごきかけました。

久助は、さびしい裏町へお蝶を導いて、何を渡世にする家とも分らない一軒のしもたやの戸を開けて、顔を出したそこの内儀と小声で話しておりましたが、

「さ、遠慮はいりませんからおはいりなすって」

お蝶を招き入れて、自分も草鞋とべんけいを戸口の隅におきました。

そして、奥の――という程でもない、せまい一間に坐りこんだ時には、折角のお蝶の好奇心も、つまらない所へ来てしまったような悔いに取り代っておりました。

「どうか、御安心なすって下ざい、今は山へ行って留守ですが、ここの亭主も私たちと回じ心の者、何を話しても、心配はない家ですから」

久助はこう言ってから――

「ところで、お嬢様は、さだめし変な奴だと、私をお疑いでございましょうが、実は、或るお方のいいつけで、郡内の手前からあなた様を蔭身になって守って来たので、まあとにかく、ここまでは御無事で、ほんとによいあんばいでございましたよ」

と、暗裏に、日本左衛門のことを知ってるような話し振りで、しかも、その難を蔭身になって守護して来たと明言するにおいては、お蝶も意外に思わずにいられません。