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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《神州天馬侠(しんしゅうてんまきょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 頁

青空文庫

ふたりはこれから、比叡山をこえ、八瀬から鞍馬をさして、峰づたいにいそぐのらしい。いうまでもなく果心居士のすまいをたずねるためだ。

音にきく源平時代のむかし、天狗の棲家といわれたほどの鞍馬の山路は、まったく話にきいた以上のけわしさ。おまけにふたりがそこへさしかかってきた時は、ちょうど、とっぷり日も暮れてしまった。

ふもとでもらった、蛍火ほどの火縄をゆいつのたよりにふって、うわばみの歯のような、岩壁をつたい、百足腹、鬼すべりなどという嶮路をよじ登ってくる。

おりから初秋とはいえ、山の寒さはまたかくべつ、それにいちめん朦朧として、ふかい霧が山をつつんでいるので、いつか火縄もしめって、消えてしまった。

「小文治どの、お気をつけなされよ、よろしいか」

「大じょうぶ、ごしんぱいはいりません」

とはいったが、小文治も、海ならどんな荒浪にも恐れぬが、山にはなれないので、れいの朱柄の槍を杖にして足をひきずりひきずりついていった。千段曲りという坂道をやっとおりると、白い霧がムクムクわきあがっている底に、ゴオーッというすごい水音がする。渓流である。

「橋がないから、その槍をおかしなさい。