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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

新田桜

……たれかと思うたら、覚一の母御前か」

新田桜

田の牛の背も、ぬかるみ道も、花ふぶきが持ってくる白い斑に、今朝は染められてないものはない。

あらましは世良田の屋形から青空へ吹き上げられて、やがてゆっくり降ってくる花であった。総門道の並木もだが、花御所と里人のよぶ館の桜は殊に古木で目ざましかった。

ゆうべ、義貞はわが屋形で、

桜別の宴

というのを催した。

都の公卿ほどな風流でも贅でもないが、そんな情緒が彼は好きなのである。弟の脇屋義助や近臣らと、行く春の一夜を惜しんで、思うざま飲み更かしたことだった。

すると、暁ぢかく。

ここから東北四、五里の距離でしかない足利から、警固番の一士が早馬で、昨夜の変事をつげて来た。

それに起されたが、義貞は、

「……明日聞こう」

とばかりまた眠ってしまったのだ。彼にはその時刻がまだ夜半と思われていたほど、酔いもしたたかだったらしい。

で、彼の起床は、今日にかぎって、陽も高々な頃だった。居室の脇息に倚った姿も、いささか宿酔気味にみえる。外の花の梢は、ことごとく一夜に衣更えした感で、急に茶みどりの吹キ芽が目につく。

「……さようか。