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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

「そこへ置け。そして退がっていい」

高氏は赤裸な背を向けたまま、凍えた四肢を拭いていた。

髪をなで、やがてまた、衣服を着こむ。

肌着から小袖、袴まで、みな白地だった。狩衣は薄色かもしれないが、燭の光では、それも白い。

ゆうべ、北ノ丸から、

「……明朝は、これを召してお渡りあれ」

と、母がわざわざ侍女に持たせてよこしたことから推しても、今暁、母が自分に見せると約した鑁阿寺の“置文”には、どんな畏れと大事をとっているかがわかる。

その厳粛な意味を、子へ、どう受けとらせるかに、思いを千々とくだいている母の無言なものが、日ごろ物臭な高氏をしても、この水垢離をとらせたといえようか。

ほどなく、彼の白い姿は、新しい菅草履をうがち、音もなく、中門を出て行った。

すると、物蔭で待っていた弟の直義が、つと、

「兄者人――」と、兄の袂をとらえて言った。

「……私も参ってはいけないでしょうか。置文を拝見に」

「や。直義か」

「兄者人がゆるされるなら、弟の私にだって」

「母上に伺ってみたか」

「いえ、おゆるしはえておりませんが」

「じゃあ、よせ」

「なぜです」

「なにも、四つの眼で見るには及ばんさ。